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GFEX、「プラチナ・パラジウム先物取引」を新上場|中国発の新価格指標は世界市場をどう変える?

2025年11月27日。中国・広州の新しい先物取引所であるGFEX (広州期貨交易所) がプラチナとパラジウムの先物取引(将来の受け渡し価格をあらかじめ決める契約による取引)を開始しました。

同時にオプション取引(将来の特定価格で売買する権利を取引する契約)も導入され、これら貴金属の中国国内初となる先物市場が誕生したことになります。

世界最大の白金族金属消費国である中国が、自ら価格を決定できる新たな指標を持つことで、国際相場にも影響を及ぼす可能性があります。

実際、取引開始に前後してプラチナの国際価格が急騰するなど、市場はこの動きに注目しています。本記事では、GFEXとは何か、この新しい先物取引が誕生した背景と特徴、そして中国発の価格指標が世界の白金族市場にどのような変化をもたらし得るのかを、初心者向けにわかりやすく解説します。

GFEXとは何か?

GFEX(広州期貨交易所)とは、2021年に設立された中国で最も新しい商品先物取引所です。

カーボン排出量取引やリチウム、ニッケル、水素関連資源など、エネルギー転換に欠かせない素材の価格指標を中国国内で独自に形成することを目的として設計されています。

言い換えれば、世界的に重要な資源の価格決定に中国が主体的に関与するための新世代の取引所です。GFEXは設立以来、準備を進め、ついに2025年11月、白金族金属であるプラチナとパラジウムの先物取引(およびオプション取引)の上場を実現しました。

プラチナとパラジウムとはどんな金属?

プラチナ(白金)とパラジウムはいずれも白金族金属(PGM)と呼ばれる希少な貴金属です。光沢があり、工業的な特性にも優れるため、宝飾用途だけでなく産業分野で重要な役割を果たします。特に、自動車の排ガスを浄化する触媒コンバーターの材料として不可欠であり、プラチナはディーゼル車や燃料電池車、パラジウムはガソリン車の触媒に多く使われています。

このため「環境対応」「エネルギー転換」の文脈で需要が語られる金属でもあります。

さらにプラチナは宝飾品(プラチナジュエリー)としての需要や、将来的には水素エネルギー(燃料電池)の触媒用途としての期待も高まっています。

世界的に見ると、プラチナもパラジウムも産出量が非常に限られており、供給源は一部の国に偏っています。プラチナは主要産出国である南アフリカ共和国が世界生産の7割以上を占め、パラジウムはロシアや南アフリカに大きく依存しています。

このため、産出国での鉱山稼働状況や地政学的リスク(例えばロシアの輸出動向など)が価格に大きく影響します。

実際、パラジウムはここ数年で価格が金を上回る水準に急騰した時期もありました。

一方プラチナは長らく供給不足が指摘されながらも価格低迷が続いていましたが、直近では需要増への期待から上昇傾向が見られます。

いずれの金属も、希少性と産業重要性から「戦略的資源」として注目されており、中国を含む各国がその安定確保や価格動向に神経を尖らせています。

プラチナ・パラジウム先物取引が中国でスタート

2025年11月27日、広州期貨交易所(GFEX)においてプラチナとパラジウムの先物取引が正式に開始されました。同時にオプション取引も導入され、これら貴金属の中国初のデリバティブ市場が姿を現しました。

プラチナとパラジウムの先物上場計画は、実は2024年7月に開催された業界イベント「上海プラチナウィーク」で初めて明らかにされており、当初は2024年内にも上場する可能性が示唆されていました。しかし制度設計や準備に時間を要し、約1年越しでようやく実現した形です。

この新市場の登場により、中国国内の企業や投資家は、従来は海外市場に依存していたプラチナ・パラジウム取引を自国で行えるようになりました。

例えば、中国の宝飾品メーカーや自動車部品(触媒)メーカーは、これまで原料価格変動のヘッジを海外市場に頼っていましたが、今後は国内市場で直接リスクヘッジが可能になります。

これは中国企業のコスト管理や競争力向上につながるでしょう。また一般の個人投資家も取引に参加できるため、中国国内の貴金属投資の裾野が広がることも期待されます。

特に中国は世界有数の自動車生産国でもあり、排ガス触媒にパラジウムを大量に必要とするため、自動車メーカーが国内市場で安定的に原材料価格をヘッジできる意義は大きいと言えます。

契約仕様には革新的な特徴も盛り込まれています。GFEXの先物契約では、従来のインゴット(延べ棒)に加えて、工業用の「スポンジ」形態の金属でも現物受け渡しが可能となっています(スポンジとは、金属を多孔質な塊状や粉末状にした工業用途向けの形態を指します)。

スポンジ形式での受渡しを公的な先物市場が認めるのは世界で初めての試みです。このような新たな設計により、中国市場の実態に即した価格形成が期待されています。

なお、GFEXのプラチナ先物は人民元建てで取引され、中国国内の指定倉庫への現物受け渡しが行われます。取引開始直後には、国際市場でもプラチナ価格が急騰し(一時1トロイオンス=1650ドル近くまで上昇)、中国からの需要拡大への期待感が色濃く表れていました。

中国が独自市場を開設した背景

中国がプラチナ・パラジウムの国内先物市場を立ち上げたのには、大きく分けて「実需の反映」と「価格主導権の確保」という背景があります。

まず実需の面では、中国はプラチナとパラジウムの世界最大の消費国です。自動車の排ガス浄化触媒などに用いられるこれらの金属を、中国は主に粉末状の「スポンジ」形態で輸入・消費しています。

しかし、従来の国際指標価格はロンドンやニューヨークの市場で形成されており、これらの市場ではインゴット(延べ板)形態の取引が基本でした。

この違いから、中国国内の需要や在庫状況が価格に反映されにくいとの不満が以前から指摘されていました。実際、中国国内にはスポンジ形状の在庫が多く存在しても、それがロンドン市場の価格には反映されないため、需給ギャップが価格に歪みを生む一因となっていたのです。

国内に先物指標がないため、中国企業は価格交渉でも海外市場の動向に従わざるを得ず、スポンジ形態の現物を割高な条件で輸入しなければならないケースもありました。取引開始直前の2025年10月には、中国のプラチナ月間輸入量が10.2トン(前年同月比で2倍以上)に急増するなど、国内需要の高まりが数字にも表れています。

GFEXでスポンジ受け渡しを可能にした先物を上場したのは、こうした実需の声を価格形成に反映させるための施策です。中国の産業界からの強い要望に応え、国内事情に合った取引制度を整備することで、より現実の需給を映した価格指標を持とうという狙いがあります。

なお、中国政府当局もこの市場の制度設計や備蓄倉庫の整備、決済インフラの構築に至るまで全面的に支援しており、国内参加者にとって利用しやすく信頼性の高い取引環境が整えられています。

次に戦略的な面では、中国が貴金属を含む重要資源の価格決定権を握りたいという思惑があります。従来、プラチナやパラジウムの価格は欧米市場に頼っていましたが、自国経済に直結する資源の価格を他国の市場任せにすることはリスクでもあります。広州の新市場を立ち上げ、自前の価格決定メカニズムを築くことは、中国の資源政策・金融戦略の一環と言えます。

また、人民元建てで取引が行われることで、ドル中心だった国際商品取引における中国・人民元の存在感を高める効果も期待されます。実際、上海では人民元建ての金取引市場(上海黄金基準値)や原油先物市場なども整備されており、国際商品市場での発言力を強めようとする中国の姿勢がうかがえます。GFEXでの白金族先物上場も、そうした流れの一環と位置づけられるでしょう。GFEXの試みは、単なる利便性向上にとどまらず、「西側主導の価格形成からの脱却」という構造転換を目指す意義を持っています。

新たな価格指標が世界市場に与える影響

中国で誕生したプラチナ・パラジウムの新たな価格指標は、今後世界の市場動向に様々な形で影響を与えると考えられます。

国際価格への影響:価格差の可能性

まず懸念されるのは、価格の二極化(分断)の可能性です。GFEXにおける価格と、従来のロンドンやNY市場における価格が乖離する局面が出てくるかもしれません。

中国の先物価格は国内の需給を色濃く反映するため、例えば中国で需要が旺盛な場合にはGFEXの価格がロンドンの指標価格より高くなる、といった地域間の価格差(スプレッド)が生じる可能性があります。

本来であれば裁定取引(アービトラージ)によって価格差は解消されますが、GFEX市場は現時点で外国人投資家の参加に制限があるため、国際間で自由に資金が行き来して価格を均一化することが難しい状況です。その結果、中国市場と欧米市場でしばらくは別々の価格動向が現れる可能性があります。こうした地域間の価格乖離は他のコモディティでも見られます。

例えば、上海市場の金価格がロンドン価格に対してプレミアム(上乗せ)を付ける局面がしばしば報告されますが、これは中国国内の需給や資本規制に起因するものです。同様に、プラチナ・パラジウムでも中国市場固有の要因が独自の価格を形成するケースが今後出てくるかもしれません。

なお、中国国内の実需家にとって自国で価格が形成されることは歓迎すべき変化ですが、一方で国際的な投資家の中には、外国人参加制限による流動性不足や国際価格との乖離リスクを懸念する声もあります。いずれにせよ、このような価格差は貴金属の国際取引や貿易にも影響を及ぼすでしょう。

例えば、中国国内の価格が国際価格より高ければ、海外から中国への金属流入が進み、逆に国際市場では供給が逼迫して価格を押し上げる要因となる可能性があります。

情報開示による透明性向上と今後の展望

GFEXの新市場は情報開示の透明性を高め、長期的には世界市場の効率性を向上させる可能性があります。

GFEXでは取引所指定倉庫の在庫データが日次で公開され、中国国内にどれだけのプラチナやパラジウムが蓄えられているかが明示される仕組みです。

これまで中国の在庫状況はブラックボックスとされ、世界全体の需給バランスを把握しにくい要因でした。新たな市場によって一部とはいえ在庫が可視化されれば、需給状況の可視化が進み、国際的な価格判断もより実態に沿ったものになることが期待されます。

実際、専門機関の報告では白金市場が数年連続で供給不足と指摘されながら価格が低迷していたとされますが、その背景には中国国内の隠れた在庫の存在があるとも言われてきました。GFEXを通じた在庫データの公開と実需反映によって、市場が需給のシグナルに敏感に反応し、適正な価格修正(評価の見直し)が促進される可能性があります。

また、GFEXの登場は既存の欧米市場にも刺激を与えることが考えられます。

ロンドンのLPPM(ロンドン白金・パラジウム市場)は伝統的な品質基準を維持する構えで当面大きな変化はないとみられますが、ニューヨークの先物市場(NYMEX)などは比較的柔軟で、過去にも金の小型バー先物など新たな商品を導入した実績があります。

将来的に、GFEXの動向を受けて欧米の取引所がスポンジ形状での受け渡しを検討したり、中国市場との連携策を模索したりする可能性も否定できません。

このように、広州発のプラチナ・パラジウム先物市場は、世界の白金族金属市場に新風を吹き込みました。中国という巨大消費国が独自の価格指標を持ったことで、価格形成の主役が一極から多極へと移行し始めたとも言えます。

今後、GFEXで形成される価格がどれほど国際的な影響力を持つかは、市場参加者の信頼と取引量次第です。新興市場ゆえ当面は流動性の確保が課題ですが、中国当局の後押しで参加拡大が進めば、新指標として定着する可能性が高まるでしょう。

少なくとも世界中の投資家や産業界が中国発の価格動向に注目せざるを得ない状況が生まれています。プラチナ・パラジウム市場の地政学的な重心が動きつつある今、従来割安に放置されがちだった白金族金属の評価が見直され、新たな相場の時代が到来する可能性も秘めているでしょう。

足元ではプラチナ価格が上昇基調を強めていますが、GFEXの出現により従来以上に中国国内の動向が価格を左右する展開が予想されます。今後のマーケットを見通すうえでも、ロンドンやニューヨークだけでなく広州発の価格シグナルに注視していくことが重要になりそうです。

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